東京高等裁判所 昭和55年(ラ)764号 決定
前記訴訟は、亀井高次郎が原告となり、新井ふくの外四名を被告として相手どって、本件土地につき共有持分全部移転の登記手続を請求する訴訟であり、請求原因の要旨は、「原告は昭和二六年四月二一日長岡一郎から本件土地を農地調整法第四条所定の知事の許可を条件として買い受け、同月三〇日本件土地の引渡を受け、以来所有の意思をもって平穏かつ公然と本件土地を占有してきたので、昭和四六年四月二九日の経過とともに所有権の取得時効が完成した。しかるに、これより先、抗告人が長岡一郎を債務者として申し立てた本件土地の強制競売事件(前橋地方裁判所昭和四〇年(ヌ)第二六号事件)において、新井清春が本件土地を競落して所有権を取得し、昭和四一年九月三日所有権移転登記を経由したが、新井清春は昭和四三年五月二九日に死亡し、被告らが相続により本件土地の所有権を承継し、所有権移転登記を経由したので、原告は被告らに対し、本件土地の共有持分全部移転の登記手続を請求する。」というのである。これに対し、被告らは原告を相手どって反訴を提起し(前橋地方裁判所昭和五一年(ワ)第二四五号事件)、その請求原因として、「本件土地は反訴原告ら(本訴被告ら)の所有に属するところ、反訴被告(本訴原告)がこれを占有しているので、反訴被告に対し本件土地の引渡を求める。」旨主張している(以下、本訴、反訴を合わせて「本件訴訟」という。)。そして、抗告人は、原審において、本件訴訟の被告ら(反訴原告ら)を補助するため参加の申出をしたのである。
記録によれば、抗告人は長岡一郎に対する債権者として前記強制競売の申立をしたものであり、また、新井清春は昭和四一年八月一〇日競落の許可を受けて、本件土地の所有権を取得し、同年九月三日所有権移転登記を経由したが、同人は昭和四三年五月二九日に死亡し、被告らが相続により本件土地の所有権を承継し、昭和四八年五月二日所有権移転登記を経由したことが認められる。したがって、本件訴訟において、原告の本訴の請求原因が認められ、取得時効の遡及効により、本件土地の競売当時、本件土地は、長岡一郎ではなくして、原告の所有に属していたとすべく、したがって、被告らの被相続人新井清春は競落によって本件土地の所有権を取得することができなかったとの理由により、被告らが敗訴し、原告の被告らに対する登記請求権の存在、被告らの原告に対する引渡請求権の不存在がそれぞれ確定すれば、被告らは本件土地について現に有する登記名義を失い、かつ本件土地の占有を取得する余地がなくなるのであり、このことは、延いて、被告らの被相続人新井清春が本件土地の競売により、登記、占有を備えた完全な所有権を取得することができなかったと同様の事態となるから、民法第五六八条第二、第三項所定の要件を充たす限り、被告らが競落人の相続人として、債権者たる抗告人に対し法律上の責任を追求しうる場合があることは否定できない。しかしながら、本件において、競売事件の債務者たる長岡一郎が無資力であるかどうか明らかでないから、被告らが抗告人に対し同条第二項所定の配当金の返還請求権を取得すべきことをたやすく肯認することはできないし、また、被告らが抗告人に対し同条第三項所定の責任を追求しうるためには、抗告人において権利の欠缺を知って競売を請求したことを要するところ、本件記録を調べても、抗告人が競売申立当時、競落人ないしその相続人が競落物件の登記の名義を喪失するに至り、また、右物件の占有を取得できないで終るであろうこと、そのような事態発生の原因である原告の取得時効が完成するであろうことを予見していたものとはとうてい認められないから(抗告人が自認するように、原告が本件土地を占有している事実を知っていたというだけでは、前記法条にいう、権利の欠缺についての「過失」があるとはいえない。)、被告らが抗告人に対し同条第三項所定の損害賠償請求権を取得すべきことも、また、肯認することはできない。叙上のとおり本件訴訟において被告らが敗訴すれば、抗告人が被告らから配当金返還あるいは損害賠償を請求されることとなるとはいえない以上、抗告人は訴訟の結果につき利害関係を有するものとすることはできない。
(蕪山 浅香 安国)